坂本工業では、パートタイマーから他社で掛け持ち勤務をしたいという相談があった。過去にこのようなケースがなかったことから、どのように対応したらよいのか、社労士に相談することにした。

 先生、今日も暑い一日ですね。今年の猛暑を実感します。

 そうですね。猛暑で雨が降らないと思っていたら、豪雨に見舞われるところもあり、天候には一層の注意が必要ですね。さて今日は、掛け持ち勤務について質問があると伺っていましたが、どのようなことでしょうか?

 はい。先日、パートタイマーから当社での勤務が終わった夕方以降と休日を利用して、他社で働くことはできないかという相談がありました。家庭のやむを得ない事情があるようです。過去にこのようなケースがなく、業務に支障がなければ問題ないと考えていますのですが、認めてもよろしいでしょうか?

 なるほど、そのような相談があったのですね。掛け持ち勤務をすること自体が直ちに問題にはなりませんが、それが原因で心身に疲労が残り、業務に支障が生じると困りますので、勤務先名や従事する業務内容、勤務時間などを事前に確認してから判断すべきですね。

 今回は事前に相談がありましたが、会社に黙って掛け持ち勤務する者が出てくる可能性があります。この場合、どのように対応しておけばよいのでしょうか。

 対応としては許可制とし、事前の申し出を義務付ける方法があります。就業規則にも記載をしておくべきでしょうね。そして、実際に掛け持ち勤務をする場合に考慮しなければならないことが2点あります。通勤災害と時間外割増賃金(以下、「割増賃金」という)です。

 具体的にはどのようなことでしょうか。

 はい。まず通勤災害については、御社の業務を終えて、次の勤務先に行く途中で事故に遭い、ケガなどをすることも考えられます。この場合、通勤災害として認められるか否かの問題が出てきますが、原則として通勤災害となります。ちなみに、次の勤務先で働くための移動中に事故が起きているため、次の勤務先で労災保険の手続きを行うことになります。

 なるほど。そのような場合も通勤災害として取り扱われるのですね。そういう面からも次の勤務先も確認しておいた方がよさそうですね。

 そうですね。次に割増賃金についてですが、そもそも割増賃金は、労働基準法において1日8時間・1週40時間(以下、「法定労働時間」という)を超えて働かせた場合、支払いが必要となります。掛け持ち勤務をした場合、どの労働時間でこの法定労働時間を超えたかの判断を行うか問題になりますが、複数の勤務先の実労働時間を合計して取り扱うことになっています。例えば御社で6時間働いた後、次の勤務先で3時間働いた場合、合計9時間となりますが、8時間を超える1時間については時間外労働になり、割増賃金を支払う必要があります。

 次の勤務先では3時間しか勤務していませんが、各勤務先で労働時間をカウントするのではなく、1日の労働時間として合計して取り扱うことになるのですね。そのようなケースの場合、割増賃金はどちらの会社が支払うことになるのでしょうか。

 この取り扱いについては、通達(昭和23年10月14日 基収2117号)で法定労働時間外に勤務させた会社の方で割増賃金を支払うこととされています。つまり先ほどの例であれば、次の勤務先ということになります。

 そうですか。他社で掛け持ちして勤務した後に当社で勤務する場合には特に取り扱いに注意する必要がありそうですね。それではまずは掛け持ち勤務の申請をしてもらうことから始めます。また質問が出てきましたらご相談します。

>>>次回に続く



 今回は、パートタイマーが他社で掛け持ち勤務する際の通勤災害と割増賃金の取り扱いについて解説しました。この通勤災害に関連し、単身赴任者の通勤災害について補足しておきましょう。
 平成18年4月に労災保険の通勤災害の範囲が拡大され、上記の掛け持ち勤務など複数の事業場で勤務する場合だけでなく、単身赴任者が会社と家族の住む場所(帰省先住居)との間を移動する経路だけでなく、普段、会社へ勤務するために居住している場所(赴任先住居)と、帰省先住居の間を移送する途中に事故に遭い、ケガなどをした場合についても、一定の条件に該当する場合は、通勤災害となります。
 なお、この対象となる者は、「転勤に伴い、当該転勤の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となったため転居を移転した労働者」(労災保険法施行規則第7条)とされています。
 判断に迷う内容かと思いますので、従業員から相談があった場合に適切に対応できるようにしておきましょう。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。