近年、人に関するトラブルが多くの企業で頻発しています。こうした時代には経営者や管理職のみなさんも労働基準法を中心とした人事労務管理の基礎知識を身に付けておくことが不可欠です。そこでこのコーナーでは、経営者や管理職が最低限知っておきたい人事労務管理のポイントを会話形式で分かりやすく解説していきます。



 新年最初の定期訪問の際に、労働時間の把握について質問を受けた。


 先生、こんにちは。昨年は大変お世話になりました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 こちらこそよろしくお願いいたします。さて早速ですが、今日は労働時間の把握についてご相談があるということでしたね。

 はい。昨年の秋口以降、アベノミクス効果の影響を受けて生産量が徐々に回復しており、残業時間も増えてきている状況にあります。そこで、その残業時間のことでご相談したいと考えていました。

 どのようなことでしょうか?

 この件は私から説明しましょう。当社では残業を行う際に、残業申請書を提出してもらっていますが、その申請書に記載された時間と実際に行っていた残業時間とが大きく異なっていることがあるということが明らかになりました。先日あったケースでは木戸部長が本人に確認し、実際に残業を終えた時間に訂正させましたが、今後はどのように運用していけばよいのでしょうか?

 なるほど。そもそも御社では従業員の出退勤や労働時間についてどのように管理していらっしゃいますか?

 はい、職場ごとに出勤簿を備え付け、従業員各人に毎日の始業時刻と終業時刻について記入させるようにしています。

 なるほど。それ自体は基本的に問題はないのですが、運用に若干の課題があるのかも知れません。それではこの問題の基本についてお話しましょう。かつては出勤簿に「出」「欠」の判を押させることで出退勤を管理している企業が多かったと思いますが、労働時間を把握しなければ過重労働の防止や適正な時間外の割増賃金について支払いを行うことができません。そこで、現在では企業に従業員の労働時間を把握する義務が課せられています。具体的には、厚生労働省より「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」という通達が出されており、会社はこの基準をもとに適正な労働時間管理を行う必要があるのです。

 なるほど。それで労働時間の把握とは具体的にはどのようなことをしなければならないのでしょうか?

 会社は労働時間を適正に把握するために、労働日ごとの始業・終業時刻を確認して、これを記録する必要があります。単に1日何時間働いていたのかではなく、何時から何時まで働いていたのかを把握しなければなりません。原則的な方法としては、使用者が自ら出退勤を確認し記録するか、もしくはタイムカードやICカードなどの客観的な記録を用いて始業・終業時刻を確認することとされています。ただし例外として、従業員に始業・終業時刻を記載してもらう自己申告制によって、労働時間を把握することも認められています。その際には以下の3点について注意が必要です。
①自己申告制を導入する前に、その対象となる従業員に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
②自己申告によって記入された時間が、実際の労働時間と合致しているか、必要に応じて実態調査を行うこと
③従業員の労働時間の適正な申告を阻害する目的で残業の時間数に上限を設定しないこと

 ということは当社の自己申告の方法自体は問題ない訳ですね。ただし、会社としては改めて従業員に正しい時刻を記録するように念押ししておく必要がありますね。

 そのとおりですね。自己申告制においてはどうしても労働時間管理が曖昧となるため、場合によっては、記入した時間が実態と合致しているのか確認しておくことが求められます。

 今回の件は他の従業員に比べて残業時間が多かったものですから、その従業員は会社から何か言われるのではないかと心配し、故意に残業時間を少なくして申告したようです。

 その従業員の気持ちは分からなくもないのですが、虚偽の報告が問題であることも含めて、従業員に理解してもらうことが望まれますね。

 そうですね。私の方から、実際の時間を記入するよう注意喚起しておきます。

 また、会社が過重労働防止や36協定遵守の観点から社内通達で残業時間の目安を示すことがありますが、それにより従業員が労働時間の申告を過小に行うようなことがないようにしておく必要があります。

 このようなケースでは、残業代の未払いという問題も併せて発生することになりますね。

 そのとおりです。また労働時間の記入を従業員に任せてしまい、残業時間を集計するときになって初めて会社が労働時間を把握するという対応では、日々の労務管理ができておらず、過重労働を防ぐことが難しい状況にあります。

 会社としては日々の労働時間の把握を行った上で、過重労働になっている場合は業務量を調整するなどの対応が必要だということですね。

 そうですね。なお、残業の発生原因は能率の悪さなど、従業員本人に問題があることもありますが、現実には会社側の対応に原因があることも少なくありません。たとえば短納期の無理な受注を受けていたり、生産プロセスの中で不効率な状況があったり、あるいは従業員本人の能力を超えた責務を負わせているような場合があります。ですから、残業時間の削減を行う際には、その本質的な原因がどこにあるのかを見極めて対応していくことが望まれます。

 わかりました。ありがとうございました。

>>>次回に続く


  企業には労働時間を把握する義務があることと併せて、始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類について3年間保存しておく必要があります。この労働時間に関する記録とはタイムカード以外にも、労働者が自分で始業・終業時刻を記入している場合はその書類、残業申請書等が含まれます。なお、保存期間については書類ごとに最後の記載がなされた日から3年間となっていますので、最低限この期間は保存を行い、古くなったものについては直ぐに処分せず、念のため倉庫等で保管しておくことが望まれます。


※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。