近年、人に関するトラブルが多くの企業で頻発しています。こうした時代には経営者や管理職のみなさんも労働基準法を中心とした人事労務管理の基礎知識を身に付けておくことが不可欠です。そこでこのコーナーでは、経営者や管理職が最低限知っておきたい人事労務管理のポイントを会話形式で分かりやすく解説していきます。




 坂本工業では毎月1日に30分早く出勤して朝礼を行うことを検討していた。そこで社労士に労働時間の定義について確認することにした。


 先生、こんにちは。今年もあと20日あまりとなりましたね。

 そうですね。業務のやり残しのないように、チェックリストを作るなどして対策をしておきたいですね。

 はい。当社ではおかげさまで秋口から生産量が増えており、残業時間が増えてきています。そのため、従業員の体調管理には特に注意を払っているところです。

 そうですか。残業時間が増えてきているということですから、今後、会社としては、各従業員の労働時間を把握して、長時間労働になっていれば業務量を調整するなどの対応が求められます。

 わかりました。現場の管理職にも労働時間を把握して、問題があれば早めに対応するように言っておきます。ところで話は変わりますが、社内の情報を共有するために、毎月1日に始業時刻の30分前に全員出社して、朝礼を行いたいと考えているのですが、なにか注意すべきことはありますか?

 全従業員に対して、通常よりも30分早くに出社するように義務づけるということですね。


 はい、そのとおりです。この朝礼の時間は労働時間になるのですか?

 今回のケースでは労働時間とする必要がありますね。まず労働時間の定義について確認しておきましょう。そもそも労働基準法でいう「労働時間」とは、「使用者の指揮監督のもとにある時間」のことを指しています。そのため、今回のように従業員全員に朝礼への参加を義務づけているのであれば、それは使用者の指揮監督のもとにあることになり、労働時間となります。

 いわゆる早出勤務ということですね。

 そのとおりです。この「労働時間」に該当するか否かは、使用者の指揮監督のもとにあるかどうかの基準により、実態をみて判断することになります。例えば、終業時刻後に社内に残って従業員同士で業務とは関係のないプライベートな雑談をしているようなケースは、会社の施設内にいたことは間違いありませんが、業務をしていたのではなく雑談をしていたことからそれは労働時間とはなりません。

 なるほど。現場では作業が終わると後片付けをしていますが、その時間はどのように考えればよいのでしょうか?

 作業後の片付けは、業務をするために通常必要とされるものと考えられますので、労働時間として取扱うことが相当でしょう。また、作業前の機械の点検なども同様です。

 当社では現場で作業を行う従業員について、安全靴を必ず着用するようにしていますが、この着用するための時間はどのように考えればよいのでしょうか?

 これについては、法令で保護具(安全靴など)や作業服の着用が義務づけられている場合であれば、これを着用するための時間は労働時間となります。法令で義務づけられているか否かがポイントとなります。この他にも例えば、研修の時間を労働時間として取り扱うか否か判断に迷うことがありますね。

 実際にありました。当初は終業時刻後に従業員が自主的に集まって勉強会をしていましたが、その後、部署の全員が参加しなければならないような状況になり、労働時間とするかどうかで困ったことがあります。

 これについては、その勉強会に参加しなければ業務に支障が生じたり、出欠を取るなどして参加が強制されていれば労働時間として取り扱う必要があります。あくまで自主的な勉強会であれば、労働時間とはなりません。そのため、自主参加の勉強会であれば、あらかじめその旨を伝えておいた方があとで無用な問題は生じませんね。

 木戸部長、これからは勉強会の取扱いについて従業員に事前に伝えるようにしよう。もうひとつ、出張の移動時間について教えてください。月曜日に遠方で出張があるため、前日に移動することがありますが、これについてはどのように考えればよいのでしょうか?

 出張の移動時間については、毎日の通勤時間と同一の性質のものであると考えられることから、原則として労働時間とはなりません。たとえ、会社の休日である日曜日に移動した場合であっても同様です。ただし、骨董品を運ぶなど移動中も商品の監視をしなければならないような状態であれば、監視業務が命じられると解釈されることから、移動時間であっても労働時間として取り扱う必要があります。

 移動時間の判断ポイントは業務命令の指示があるか否かですね。

 労働時間となるか否かは、トラブルになることが多くありますので、会社としては労働時間の定義を理解した上で労働時間の管理をしていくことが求められます。


>>>次回に続く



 労働基準法における労働時間とは「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」のことですが、一方、休憩時間とは、使用者から離れて自由に利用できる時間のことを指しています。そのため、休憩時間中に電話当番をさせているケースについては完全に労働から解放されているとは言えないことから、会社としては電話当番に当たる従業員に対して、別途休憩時間を与える必要があります。また、従業員は休憩時間を利用して外出することができますが、その外出について届出をさせることについて法的に問題はないのか判断に迷うことがあるでしょう。これについては、従業員が社内にいるのか否かを把握しておくことが施設の管理責任の面から不可欠であるときには、届出を求めることは法的に問題ありません。


※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。