坂本工業では8月の夏季休業において、機械設備の入れ替えを行う予定しており、その影響で夏季休業を例年よりも1日を増やそうと考えている。そこで、その日について、従業員全員に年次有給休暇(以下、「年休」という)を取得してもらうことはできないか、社労士に相談することにした。

 先生、今年も暑い夏となりそうですね。

 そうですね。節電対策も重要ですが、一方で熱中症対策にも気を配っていく必要がありますね。さて、今日は、年休取得のことで質問があると伺っていましたが、どのようなことでしょうか?

 はい。当社では、来月に夏季休業を予定していますが、その休業日を利用して、工場の機械設備の入れ替えを予定しています。現在の夏季休業では、日程が足りないため1日休みを増やさなければなりません。そこでこの1日について、従業員全員に年休を取得してもらおうと考えていますが、そのような取扱いは可能でしょうか?

 はい、可能です。年休の計画的付与という制度がありますので、これを活用することが考えられます。

 年休の計画的付与?それはどのような制度ですか?

 そもそも年休は、従業員がこの日に取得したいと指定した日に与えることが原則となりますが、労使の合意があれば、年休の日数のうち5日を超える部分については、あらかじめ会社が指定した日に与えることができます。これが年休の計画的付与です。

 5日を超える部分ということですが、具体的にはどのようになるのか教えてください。

 はい、例えば年休が12日ある場合、そのうちの5日は従業員が自由な時季に取得できるようにしなければなりませんが、それを超える7日については会社が指定した日に与えることができるのです。

 なるほど。それであれば今回の目的にぴったりですね。木戸部長、この制度を活用して全員一斉に年休を取得することにしよう。

 わかりました。この計画的付与を導入するにあたって、会社の方で何か必要な手続き等はありますか?

 まず就業規則に計画的付与を行う旨を規定し、その上で、労働の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその代表者)と以下の事項について労使協定を締結しておく必要があります。ちなみにこの労使協定は労働基準監督署に届け出る必要はありません。
①計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
②対象となる年休の日数
③計画的付与の具体的な方法
④対象となる年休を持たない者の扱い
⑤計画的付与日の変更

 ④の「対象となる年休を持たない者の扱い」とはどのようなことでしょうか?

 よい質問ですね。今回のように夏季休業と連続して年休を取得させる場合、法令通りに年休が付与されると4月に入社した新入社員についてはまだ年休が付与されていません。また、既に年休を取得し、残日数が少ない者がいるケースもありますね。そのため、労使協定の中でこれらの者の取扱いを決めておくことになります。

 なるほど。考えてもみませんでしたが、その通りですね。どうすればよいのですか?


 はい、特別休暇(有給)を与えるという対応が一般的かとは思います。もちろん、対象者のみを出勤させることも可能ですが、例えば新入社員のみが出社しても、どのような業務をさせるのか、困ってしまうこともありますよね。なお、何も対応をとらずに新入社員を休業させる場合には、会社都合による休業となるため、休業手当(平均賃金の6割以上)の支払いが必要となります。つまり、このように困ることがないように、取扱いを労使協定の中で決めておくことになります。

 なるほど。今回は1日のことですし、当社では特別休暇を与えることで対応することにします。

 また、この年休の計画的付与には今回のような会社全体を休業させる一斉付与方式のほかに、班別で付与日を決める交替制付与方式、年次有給休暇付与計画表によって個人ごとに決める個人別付与方式というものもあります。

 なるほど。工場と営業・事務のように分けることもできるのですね。

 その他にも、アニバーサリー休暇として、本人の誕生日や家族の誕生日を対象にすることもあります。計画が立てやすいというメリットもありますし、家族にとっても評判が良いという話を聞きますよ。

 それは良いアイデアですね。当社では特に既婚の男性社員の取得率が低いように思うので、そのような制度も検討し、取得率の向上を図っていきたいですね。また、分からないことが出てきましたら相談にのってください。

>>>次回に続く



 今回は、年休の計画的付与を取り上げ、導入にあたり労使協定の締結が必要であることを解説しましたが、ここで、主な労使協定について労働基準監督署に届出が必要なものとそうではないものとをまとめておきましょう。労使協定の締結・届出がなされているか、この機会にチェックしておきましょう。

 ■主な労使協定とその届出義務
  (1)時間外労働・休日労働に関する労使協定(36協定) ○
  (2)60時間超時間外労働の代替休暇に関する協定 ×
  (3)賃金控除に関する労使協定 ×
  (4)一斉休憩の適用除外に関する労使協定 ×
  (5)社内預金に関する労使協定 ○
  (6)1ヶ月単位の変形労働時間制に関する労使協定 △
  (7)1年単位の変形労働時間制に関する労使協定 ○
  (8)1週間単位の非定型的変形労働時間制に関する労使協定 ○
  (9)フレックスタイム制に関する労使協定 ×
  (10)事業場外労働に関する労使協定 △
  (11)専門業務型裁量労働制に関する労使協定 ○
  (12)年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定 ×
  (13)年次有給休暇の時間単位付与に関する協定 ×
  (14)年次有給休暇中の賃金に関する労使協定 ×
  (15)育児・介護休業等の適用除外者に関する労使協定 ×
  (16)65歳までの継続雇用制度に関する労使協定 ×
    ※労働基準監督署への届出が、○:必要 △:条件による ×:不要

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。