先日、坂本社長は、知り合いの会社に労働基準監督署の調査が入り、時間外割増賃金の不払いなどの指摘を受けたという話を聞いた。そこで、今回は時間外割増賃金の計算について確認することにした。

 先生、猛暑も一段落し、だいぶ過ごしやすくなりましたね。

 そうですね。今年は猛暑の影響か、ゲリラ豪雨や竜巻などの被害が多かったですね。温暖化やヒートアイランドの影響なのか、日本の気候が大きく変わってきているような印象を受けています。さて今日は、時間外割増賃金について確認したいと伺っていましたが、どのようなことでしょうか。

 実は、先日、知り合いの会社に労働基準監督署の調査が入り、時間外割増賃金の不払いなどの指摘を受けているようなのです。そこで当社の現在の取扱いに問題がないか確認したいのですが、説明をお願いできませんか?

 はい、わかりました。それでは、まず時間外割増賃金の計算方法について確認しましょう。
時間外割増賃金の計算式は、以下のとおりとなります。
(1)対象賃金÷(2)月平均所定労働時間×(3)割増賃金率×(4)対象時間数

 これを順番に見ていくことにしましょう。最初に(1)対象賃金ですが、従業員のみなさんの給与はどのような支給項目から構成されていますか?

 まずは基本給ですね。そして諸手当としては役職手当、営業手当、家族手当、調整手当、それに通勤手当があります。

 ありがとうございます。ちなみにこれらの他に歩合のような変動給はありませんか?

 いえ、ありません。

 ということは、時間外割増賃金の対象賃金は基本給、役職手当、営業手当、調整手当を合算したものになりますね。時間外割増賃金の対象賃金は原則として基本給のみならず固定給をすべて合算した金額となります。ただし、ここから除外できるものが労働基準法および同施行規則で定められており、具体的には家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間毎に計算される変動給等の7つの手当と規定されています。また今回はありませんでしたが、歩合がある場合、若干特殊な計算方法で対象賃金に加える必要があります。

 木戸部長、当社の計算は大丈夫なのか?

 はい。この点については問題ありません。

 それでは次は(2)月平均所定労働時間についてです。ここは1年間を平均した1ヶ月の所定労働時間を利用することが通常です。木戸部長、御社の1日の所定労働時間は8時間だったと思いますが、年間休日数は何日になりますか?

 当社は、毎年、年間休日が110日となるように設定しています。

 年間休日が110日ということは、年間の所定労働日数は365日-110日で255日になります。これに1日の所定労働時間である8時間をかけると年間の総所定労働時間は2,040時間。これを12ヶ月で割ると、月当たりの平均所定労働時間が算出され、170時間になりますね。

 170時間ですか。当社ではたしか184時間で計算しています。以前、通常月の出勤日が23日でしたので、23日×8時間で184時間となっています。

 正しい計算式にすると時間外割増賃金を計算する際の分母が小さくなりますので、結果として時間外単価が高くなりますね。御社のように時間外割増賃金の計算時に、月平均所定労働時間が週40時間制以前の時間数のままになっているような例を時折みかけます。それでは、これを適正化した場合にはどの程度の差異が出るのかを検証してみましょう。

 はい、お願いします。

 時間外割増賃金の対象賃金を仮に280,000円として計算してみましょう。現在の184時間の設定で行くと、280,000円÷184時間×1.25ですから、小数点以下を切り上げると、時間外割増賃金の単価は1,903円になります。これに対し、本来の時間数である170時間で計算すると、280,000円÷170時間×1.25は、2,059円ですね。差額は1時間当たり156円になります。
 対象者が40人で月に平均30時間の時間外労働があるとすると、156円×40人×30時間=187,200円。1ヶ月に187,200円の不払いが発生していることになります。

 なるほど。一人当たりの金額は大きくないと思っていましたが、全員に関連する問題ですので、かなり大きいな影響がありますね。すぐに正しい計算式にするようにします。

>>>次回に続く



 時間外割増の対象となる賃金や月平均所定労働時間については、その適正な計算方法があり、企業は無意識のうちに間違った処理をしていることがあります。坂本工業では、対象賃金については正しい処理がなされていましたが、実際にはここが基本給だけで計算されているような企業も少なくありません。また住宅手当を時間外対象賃金から外す場合には、「割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱う」といった詳細なルールがありますので、十分な確認が求められます。最近は不払い問題が注目されている時期ですので、再確認をしておきましょう。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。